オフィスを「見える化」:インクルーシブなサイン計画で誰もが安心して働ける環境づくり
オフィスにおける「サイン計画」の重要性とインクルーシブな視点
オフィスは、そこで働く従業員だけでなく、来訪するお客様や取引先など、様々な人が利用する場所です。これらの人々がオフィス内で迷うことなく、安全に、そして快適に移動し目的の場所にたどり着けるようにすることは、オフィス環境を考える上で非常に重要です。ここで大きな役割を果たすのが「サイン計画」、つまり案内表示の設計です。
従来のサイン計画は、主に建物の機能性や効率性を重視して行われてきました。しかし、近年多様な人材が共に働くインクルーシブなオフィスが求められる中で、サイン計画にも「インクルーシブな視点」を取り入れることが不可欠となっています。
インクルーシブなサイン計画とは、単に場所を示すだけでなく、視覚、聴覚、認知特性、言語などの多様な背景を持つ人々、例えば高齢者、一時的な怪我人、外国人、発達障害のある方など、あらゆる人が情報を正確に理解し、行動できるような配慮がなされたサインシステムを指します。これにより、従業員の不要なストレスを軽減し、業務効率を向上させ、来訪者にも安心感を提供することができます。
インクルーシブなサインデザインの具体的なポイント
では、具体的にどのような点に配慮すれば、インクルーシブなサイン計画を実現できるのでしょうか。いくつかの重要なポイントをご紹介します。
1. デザインの要素
- 色とコントラスト: 文字やピクトグラムが背景から明確に識別できるよう、高いコントラストを持つ配色を選ぶことが重要です。特に視覚に特性を持つ方にとって、色の組み合わせは情報の読み取りやすさに大きく影響します。色の組み合わせによる見え方のシミュレーションを行うことも有効です。
- フォント: 誰にでも読みやすいユニバーサルデザインフォントを選びます。文字サイズは遠くからでも視認できるよう適切に設定し、文字間隔や行間も詰まりすぎず、ゆとりを持たせることが望ましいです。
- ピクトグラム: 万国共通で理解しやすい標準的なピクトグラムを使用します。複雑すぎず、シンプルで直感的に意味が伝わるデザインが効果的です。
- 情報量: 一つのサインに盛り込む情報量は最小限に抑え、簡潔に伝わるようにします。複数の情報が必要な場合は、階層的に表示するなど、情報整理の工夫が必要です。
2. 設置場所と高さ
サインは、利用者の主要な動線上に、見落としにくい高さと位置に設置します。車椅子利用者や子供の視点も考慮し、複数の高さに情報を表示したり、床面サインを活用したりすることも検討できます。また、日光や照明の反射で見えにくくならないよう、設置場所の環境も考慮します。
3. 情報の多角的な提供
- 多言語対応: 外国籍の従業員や来訪者が多い場合は、主要な案内表示に多言語表記を加えることが有効です。
- 触知サイン・点字: 視覚障害のある方が触って情報を得られるよう、点字や触知可能な案内表示を設置します。これは特にトイレや会議室、非常口などで重要になります。
- デジタルサイネージ: 必要に応じて情報を更新できるデジタルサイネージは、多言語表示や音声案内、一時的な情報提供など、柔軟な対応が可能です。ただし、デジタル表示だけでなく、アナログなサインも併用することで、あらゆる状況に対応できるシステムとなります。
インクルーシブなサイン計画の導入事例(想定)
実際にインクルーシブなサイン計画を導入したオフィスでは、様々な効果が見られます。
- 大手IT企業A社: オフィス移転に伴い、フロア全体のサイン計画を見直しました。色覚特性に配慮した配色、読みやすいフォント、多言語・ピクトグラム併記を徹底。主要なエリアには触知サインや点字を設置しました。結果、従業員から「迷うことが減った」「来客案内がスムーズになった」という声が多く寄せられ、特に新入社員や海外からの訪問者からの評価が高まりました。
- 中規模商社B社: 既存オフィスの一部の改修時に、会議室エリアと休憩スペースのサインをインクルーシブ化しました。各部屋の名前を大きく表示するとともに、利用状況が外部から分かりやすいサイン(使用中/空室など)を設置。会議室の入り口には触知サインを追加しました。これにより、会議室を探す時間や、予約した会議室が空いているか確認する手間が減り、業務効率が向上しました。
これらの事例は、オフィス全体のサインシステムを刷新する大規模なものから、特定のエリアのみを改善する小規模なものまで様々です。自社の状況や予算に合わせて、段階的に導入を進めることも可能です。
導入検討におけるポイントとコスト
インクルーシブなサイン計画の導入を検討する際、総務部として考慮すべき点がいくつかあります。
まず、現在のオフィスで従業員や来訪者がどのような点で困っているのか、ヒアリングや観察を通じて現状を把握することから始めます。次に、どのような情報を提供する必要があるのか、どの場所にサインが必要なのかを整理します。
デザインや設置にあたっては、専門的な知識が必要です。インクルーシブデザインに知見のあるサイン専門業者や建築士、デザイナーと連携することで、効果的かつユニバーサルなサインシステムを構築できます。従業員からの意見を設計段階で取り入れることも、実効性の高いサインシステムにつながります。
コストについては、サインの種類(素材、加工)、サイズ、設置箇所数、デザイン費用、施工費用などによって大きく変動します。オフィス全体を刷新する場合は数百万円から、特定のエリアのみの改善であれば数十万円から実施可能なケースもあります。重要なのは、単なる「費用」として捉えるのではなく、「投資」として費用対効果を考えることです。
費用対効果としては、以下のような点が挙げられます。 * 生産性向上: 従業員や来客が迷う時間の削減 * 業務効率化: 来客対応や案内の手間軽減 * 安心感・ストレス軽減: 従業員の働きやすさ向上 * 企業イメージ向上: 誰にとっても配慮が行き届いたオフィスという印象
これらの効果は、目に見えにくい部分もありますが、長期的に見れば従業員のエンゲージメント向上や企業ブランセス向上に貢献すると考えられます。
まとめ:サイン計画は「働く環境」への投資
インクルーシブなサイン計画は、単なる案内表示の変更に留まらず、オフィスで働くすべての人、そして訪れるすべての人への配慮を示す重要な要素です。誰もが迷わず安心して過ごせる環境は、従業員のストレスを軽減し、集中力を高め、結果として生産性の向上につながります。
また、企業として多様性を尊重し、あらゆる人が働きやすい環境整備に取り組んでいるという姿勢は、従業員のエンゲージメントを高め、採用活動においてもポジティブな影響をもたらす可能性があります。
ぜひ、貴社オフィスのサイン計画を見直し、インクルーシブな視点を取り入れた働きやすい環境づくりをご検討されてみてはいかがでしょうか。